梵字大全とは
『梵字大全』は、世界最大級の約13,000字の梵字図形を収録し、それらの梵字が表わす1,000以上の佛尊の尊名、種字、真言、陀羅尼等を集大成するもので、広大かつ深遠な佛教世界の理解、悉曇梵字研究の発展に資するものです。
梵字の字形は当代一の梵字指導者である児玉義隆師にご指導を賜り、梵字字形のTrueTypeフォント化、SVG画像フォント化を実現し、ワープロソフトや電子書籍などデジタル環境での利用が可能です。
またローマ字の読み表記を付け、日本に梵字を請来した大師空海が大切にしたサンスクリットの音に慣れることも視野にいれました。
『梵字大全』プロジェクトサイトの構成と概要
Ⅰ.「梵字湧出窓」(梵字入力ツール・一部字形検索)
梵字のローマ字入力で、梵字字形を表示し、梵字文の作成、印字を支援します。
また梵字の一部字形よりの字形検索が可能で、その梵字の読みがローマ字でわかります。
Ⅱ.「尊位真言集編」
奈良時代の真言密教以前の佛尊を初めとして 平安時代以降の如来、菩薩、明王、眷属などの 尊名を検索することで、種字、真言などの梵字、ローマ字、漢字、ひらかなが表示され、結果を印字できます。
Ⅲ.「梵字大全資料編」
般若心経をはじめとして、維摩経など「経文梵字資料」を順次デジタル化し、資料の蓄積を目指します。またそのPDF版を当ホームページで公開していきます。
「般若心経」全文(PDF)準備中
「維摩経」梵字大全資料編
本資料は順次、追加更新されます。
本資料には大正大學の許諾をいただき『梵文維摩経−ポタラ宮所蔵写本に基づく校訂−』(大正大学綜合佛教研究所刊行)の梵文ローマ字読みを収載致しております。
入力制作:前嶋光宏氏
維摩経の話
このお経は、紀元2世紀頃につくられたとされています。主人公は、ヴィマラ・キールティー Vimala・kīrtiという、在家の大商人でありながら、居士と呼ばれる佛弟子で、差別なく多くの人に施しをした人物です。家に居る士の意味の「居士」ということばは、この維摩經のヴィマラ・キールティー以後つかわれるようになったと言われています。
「ゆいまきょう」と呼ばれますが、名前のヴィマラの頭の部分Viに当たる漢字がなかったために「維」を充てたもので、名前と乖離しています。明治時代にローマ字がたくさん入ってきたころにも、日本ではVの音にワ行音を充てました。森鷗外も「レオナルト・ダヰンチ」と書いていますし、ナポリの火山Vesuvioは「ヱスヰオ」としています。つまり「ヰマ経」と呼ばないとなんのことかわかりません。音写の「毘摩羅詰」なら落ち着きます。
このお経は、内容としては佛教の教えが主題ではあっても、説法ではなく、主人公のヴィマラ・キールティーと佛弟子や菩薩たちとのドラマチックな対話とでもいえるものです。そのためか、4世紀ころに鳩摩羅什(くまらじゅう)が漢訳したものが広く読まれ、日本でも早く飛鳥時代に聖徳太子が著わされたとされる三経義疏の一つとして採り上げられているほどです。聖徳太子ゆかりの法隆寺、その五重塔初層東面には維摩経の有名な一場面をとりあげた塑像(粘土像)群が千年以上の時間に耐えて、今に残っています。「問疾品第五」の文殊菩薩がヴィマラ・キールティーの病気見舞いに行き、二人の問答となるところで、その場面が活写されているような場面です。
この「病氣見舞」、實は行ってみたら仮病であったとわかるのですが、この筋書きが維摩経の話の内容を象徴しています。第三章で「於我無我而不二」ということばが出てきます。以後「不二 フニ」がこの経の主調低音となっていきます。我と無我は二つ別であるのではなく不二だと。そして「不二の法門」として佛教の思潮の大きな流れとなつていくと共に、「この不同不二の乾坤を建立し得る」(夏目漱石『草枕』)といった使われ方もするようになります。日本では古くから現代に至るまで、なじみのある経典といえましょう。
漢訳はあってもサンスクリット語の原典は見当たらないでいたところ、1999年に大正大学綜合佛教研究所が中国民族宮・中国民族図書館との学術交流事業を推進した結果、チベット・ラサのポタラ宮で日本人の研究者が奇跡的に発見しました。それ故、大正大学出版会の出版にかかる「梵文維摩經」が世界で唯一のサンスクリット写本ということで、当協会も大正大学からご許諾をいただき、ここに梵字をまじえた翻刻をするに至りました。
維 摩 經 (目次)
1 第一章 佛國品 ぶっこくほんくほん
2 第二章 方便品 ほうべんほんんほん
3 第三章 弟子品 でしほんしほん
4 第四章 菩薩品 ぼさつほんつほん
5 第五章 文珠師利問疾品 もんじゅしり・もんしつほんつほん
6 第六章 不思議品 ふしぎほんぎほん
7 第七章 觀衆生品 かんしゅじょうほんうほん
8 第八章 佛道品 ぶつどうほんうほん
9 第九章 入不二法門品 にゅうふにほうもんほんんほん
10 第十章 香積佛品 こうしゃくぶつほんつほん
11 第十一章 菩薩行品 ぼさつぎょうほんうほん
12 第十二章 見阿閦佛品 けんあしゅくぶつほんつほん
13 第十三章 法供養品 ほうくようほんうほん
14 第十四章 囑累品 しょくるいほん
梵字とは
古代インドの文字で、サンスクリット、あるいは悉曇と呼ばれるものです。お釈迦様が今から2500年程前にこの世界の本当の姿を悟られ、その真実を人々に伝えようとして布教をされたのが佛教ですが、その説教の内容は地元のインドの言葉で綴られました。 お釈迦様が亡くなられて500年ほど経った頃に起こったのが、自分が修行を積むと同時に、他者を救済しようとする大乗仏教で、その膨大な数の教えは梵字・サンスクリットで書かれました。 中国や南アジアから伝わって日本に定着した仏教は、多くの宗派に分かれて盛んになりましたが、いずれもこの大乗仏教の一派です。
密教と梵字
その大乗仏教の中から新しくインドで生れたのが秘密仏教、すなわち密教と言われる宗教です。何が秘密かというと、釈迦の悟った真理の内容は深奥なものであり、無知なわれわれの日常世界を超えた秘密の世界に属するものであって、それを言葉で表現しようとすると、日常の言葉とは違う、呪文のような、容易には理解しにくいものによることとなります。それを真言・マントラと呼び、神秘的な力を持つものとされています。普通の真言より長めの呪文は陀羅尼・ダーラニーと言いますが、いずれも秘密世界の言葉であるだけに、人間日常とは別の言葉、つまりサンスクリットで唱えられなければ、超越した仏の世界とは感応できないことになります。梵字が必要な理由です。 釈尊が悟入した真理の世界の中心に居る絶対者を法身大日如来と言い、理性で作り上げられた存在なので、色も形も無いものと思われがちですが、密教では色も形もあって、大乗の諸佛諸菩薩や、インドの他宗教であるバラモン教やインド教の神々なども取込んで、大日如來を中心とした、総合的な世界を作り上げていきます。つまり曼陀羅・マンダラと呼ばれる多彩な世界が作られたわけです。
密教の歴史的な経緯
7世紀頃にインドで生れた、大日如来を中心に据えた密教は、8世紀唐の玄宗皇帝時代に三人のインド人高僧が渡来したことで中国に伝えられました。そこからインドの、梵字で書かれた密教教典が次々と漢文に飜譯されましたが、密教は理論と共に実地の儀式、修行を大切にするので、その際に用いられる真言・陀羅尼はインドの文字と発音が使われました。つまり梵字の知識は必須となりました。そこから、同時代に、梵字を知らなかった空海が、留学した長安で真っ先に学んだのは、般若三蔵というインド僧についての梵字・サンスクリット学習であったことは間違いないことと思われます。その上で、空海は、『金剛頂経』を漢訳した印度僧不空の直弟子恵果に会いに行きます。恵果は、善無畏の訳した、宇宙の真理を人格化した大日如来の説く『大日経』から胎蔵生マンダラを、悟りを得るための実践的な手段を説く『金剛頂経』からは金剛界マンダラを描くことで人間の「理」と「智」を両立させて、両部曼荼羅を仕立て上げました。あるいは空間と時間の世界を示したと言えましょう。 それが劇的な出会いとなり、空海の能力を見極めた恵果は、己の持てる全てを空海に与え、それを日本に持帰ることで、密教の永続を願いました。現代に密教の残っているのは、日本とチベットだけです。
今なぜ「梵字」なのか―《安心》が得られる古代人の智慧
言葉を使うようになって三万年、人類は知的には生物の最先端となって更に進化をつづけています。西紀2000年になって直前の産業革命が今までにない大量生産を可能にし、人口の急増をゆるすようになると共に、それまで馬が交通手段の最速であったものが、プロペラ飛行機、ジェット機、ロケットと発達して地球は一遍に狭いものとなりました。一方で情報も、狼煙などの原始的傳達手段から、モールス符号によるもの、固定電話、携帯電話になり、計算機の発達がコンピュータ、インターネットへと展開して地球はますます網の目の張りめぐらされた情報社会となりました。将棋や囲碁でもコンピュータが人間を負かすようになり、究極的には原子爆弾といった、人間が自分の住む社会を自分で破壊できるといった事態になったことに、全世界の人々は内心に大きな不安を抱いています。思い返せばこれらの展開は近々百年に満たない短時間のことで、長い人類の歴史の中ではほんの一瞬に過ぎない時の間です。その加速度のついた進展に、餘計に人々は一段の危惧を抱いているのでしょう。
そのような時代に、《安心・(あんじん)》の得られるのは、意外にも古代人の智慧であると信じられるようになっててきました。2500年前ではあっても、この世の本質を瞑想により悟って、その内容を人々に伝えた釈尊の教えがその最高のものでしょう。そして釈尊没後1000年ほどの間に仏教は様々な展開を見せた上で、密教(秘密佛教)にたどり着きました。 正当な密教の継承者と認められて大陸より帰国した空海が持帰った大曼荼羅、それが絵画として具体的に示されている世界が密教の核心といえましょう。
中心にいます宇宙の主催者大日如来を取り巻いて多くの尊像が描かれています。曼荼羅は広大な宇宙構造の模型(諷喩)であると共に、スイスの精神科医C・G・ユングは人間の心、精神構造の模型として曼荼羅を病状の観察にあてています。曼荼羅により極大と極小の世界に近づけるわけで、悟りの内容が理解されやすくなるのです。そこで空海は、その世界の尊像達に呼びかけることを大切にしました。他者に祝福を与え、己を守り、己の無知(無明)を破り、さらには悟りの智慧を得る言葉、それが真言・マントラです。効果があるのはそれが極力古代インドの音に似ていることで、そこで梵字を学び、その発音を使うことの必要性が浮び上ります。
梵字、陀羅尼の読みについて
すでに4世紀ころに中国に入った仏教経典は当然梵字サンスクリットによるものなので、次々と翻訳されました。真言にあたるものまで漢字にされたことは、多くの人の知る『般若心経』によっても分かります。しかしさすがに真言にあたる語句は呪文であり、一種の音楽なので梵字の音を漢字に置き換えました。それを玄奘三蔵は「不翻」と言っています。 問題は、漢字が梵字の音を忠実には真似られなかったことです。
・漢字訳:羯諦羯諦波羅羯諦波羅僧羯諦菩提娑婆訶
・かな読み:ぎゃあていぎゃあていはらぎゃあていはらそうぎゃあていぼぢそわか
・ローマナイズ: gategatepāragate pārasaṃgate bodhi svāhā/
・かな読み:がてーがてーぱーらがて ぱーらさんがてぼでぃすばーはー
梵字のローマナイズは音がほとんど忠実に再現されると言われています。 そこで本『梵字大全』では、ローマナイズを主とし、当て字の漢字ははずし、日本語は、慣用の高野山流を中心に使っていますが、ローマナイズから読みだしたものも用いました。しかし日本語も、子音の多い梵字の発音とは程遠いものです。
『梵字大全』の読み表記について
1. かな讀みはすべて「ひらかな」としました。讀誦にはカタカナより讀み易いからです。
a.vもbもバ行としました。ヴという「ひらかな」が無いことと、日本人にも中國人にもvとbの音の區別はできなかったためです。
b.rとlは、兩方ともラ行としました。區別が出來ないこと、同前です。
c. 小書き、例えば「っ、ゃ、ょ」といった捨て仮名と呼ばれる文字は使いませんでした。發音が不安定であることも一因です。
2.ローマ字に關して
a. 大文字は使いませんでした。
b. 連声は到らぬため、不安定になっています。
文字文化協會編輯
書籍版ISBN978-4-903375-42-7 セット 14,000円(本体)
「成就吉祥章」 児玉義隆書監修 悉曇十八章・刷毛書等
「梵書法帖」 澄禪書 江戸初期冊子復刻
「悉曇十八章」 澄禪流 江戸中期書復刻
入門者から研究者まで、梵字理解のための必携基本図書。現存する梵字を集大成した仏教文化の金字塔。
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